【保存版】データで読み解くインドにおける日本語人材採用大全
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記事の目的と背景
インド市場における日本語スピーカーの採用需要は、ここ数年で高まっています。日系企業のインド進出が進む中で、ビジネスの拡大に伴い、日本語を話せるインド人の需要が増加することが考えられます。 しかし、多くの企業の採用担当者にとって、インドの日本語人材の給与相場や実際の日本語力については、まだ不明な点が多いのが現状ではないでしょうか。
そこで本記事では、インドで日本語人材を採用したいと考える企業の皆様に向けて、インドの日本語スピーカーとキャリア面談をしている私が、最新のデータや実体験を基に、日本語人材の現状を徹底的に解説します!
この記事を通じて、インドの日本語人材の現状や給与、スキルについてまるっと理解できる内容になっているので、ぜひ参考にしてみてください!
日本語人材の需要増加の背景
日系企業のインド進出と日本語人材の重要性
インドは14億人を超える人口を擁し、世界最大の若年労働力市場となっています。また、成長著しい経済環境に加えて、インフラの整備やIT産業の発展も進行中です。こうした要素が日本企業にとってインド市場の魅力を高めています。例えば、トヨタ自動車株式会社や本田技研工業株式会社といった大手製造業のみならず、IT企業や金融業界でも多くの日本企業がインドに進出しています。
実際にインド政府が日本の中小企業のインド進出支援に乗り出し、インド進出の日系企業を現在の約10倍となる15,000社に増やすのが目標として、インド大使はこの目標について「3年で達成したい」という意向を明らかにしています。
その一方で、現地のビジネスにおいては、言語の壁がしばしば大きな問題となります。インドでは英語がビジネスの共通言語として使用されていますが、日本企業との取引や社内業務で日本語を使用するケースも多いため、日本語を話せる人材は非常に貴重です。
引用:
インド進出日系企業、中小含め3年で10倍に 駐日大使 – 日本経済新聞 (nikkei.com)
インドにおける日本語教育の拡大と学習者の増加
インドでは近年、日本語教育が急速に拡大し、それに伴って日本語学習者の数も増加しています。これは、日本とインドの経済的・文化的関係が深化する中で、日本語の需要が高まっているといえるでしょう。
インド政府と日本政府は、日本語教育のさらなる発展に向けた協力関係を強化しています。今後5年間で100の高等教育機関に日本語講座を設置し、1,000人の日本語教師を育成する計画が進行中です。これにより、日本語を学ぶ機会が全国的に拡大し、教育の質も向上することが期待されています。
さらに、2021年度の統計によれば、インドにおける日本語学習者数は36,015人に達しました。この数は年々増加しており、日本語への関心が全国的に高まっていることを示しています。特に都市部では、日本語能力試験(JLPT)の受験者数も増加傾向にあり、ビジネスや学術分野で日本語を活用したいと考える人々が増えています。
また、経済のグローバル化と日系企業のインド進出により、ビジネス分野での日本語スキルの需要が高まっています。多くの学生が日系企業への就職を目指し、通訳、翻訳、営業、エンジニアリングなど、実務で日本語を活用できる職種を希望しています。企業内教育や専門学校でも日本語教育が活発に行われており、日本語能力をキャリアアップの重要なスキルと捉える傾向が強まっています。
参考文献:
■国際交流基金 – 2021年度 海外日本語教育機関調査
https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/survey/result/dl/survey_2021/2021_all.pdf ↩
■国際交流基金 – インド(2023年10月現在)
https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/survey/area/country/2023/india.html ↩
■高度外国人材海外基礎情報(インド)(2021年3月) | ジェトロ
https://www.jetro.go.jp/world/asia/in/hr/overview.html ↩
日本語スピーカーの給与相場
インドの日本語スピーカーの給与は、日本語能力や経験年数、職種に応じて大きく異なります。特に、JLPT(日本語能力試験)のN1、N2、N3といった日本語能力のレベルが給与に直接影響を与える場合が多いです。以下では、職種別の給与相場や日本語能力別の給与傾向、勤務地ごとの給与相場について詳しく見ていきます。
日本語能力別×職種別の給与相場
日本語スピーカーの職種として代表的なものに、通訳者、営業職、エンジニア、総務、そして経理があります。それぞれの職種ごとに、給与の中央値と平均値は以下の通りです。注意点として、経験年数の分布が偏っていることもあり、以下は参考程度のものになります。(弊社データベースより引用)
*単位はLPA(= Lakhs Per Annum, 1 Lakh = 100,000)
総務職では他の職種に比べて給与の上昇は緩やかです。その理由は、日本語力よりも経験年数が重要視されるからです。経験年数を重ねるごとに業務の幅が広がり、それに伴って高い給与が期待できるため、日本語力と共に経験年数も重要となります。
また、エンジニアに関しても、ある程度日本語を話すことができればいいので、重要なのは技術力や経験年数になってきます。そのため、上がり幅は緩やかですが、高い給与が求められることが多いです。また同じ理由でN1通訳者の中央値より給与が低いですが、一般的には通訳者よりもエンジニア人材のほうが給与が高い場合が多いです。
経験年数別×職種別の給与相場
経験年数が給与に与える影響は大きく、キャリアが長いほど給与も高くなる傾向があります。特に通訳者やエンジニアのように専門性の高い職種では、経験年数が給与を大きく左右します。
総務職に関して、他の職種に比べて給与の上昇は緩やかですが、管理職に昇進することで給与が大幅に上がる場合があります。特に、15年以上の経験を持つ人材は、経理、人事、総務全般の管理を担うこともあり、その分高い給与が期待されることがあります。
日本語スピーカーの勤務地分布
インドにおける日本語スピーカーは主に主要都市に集中しており、各地域ごとに産業や職種の特色が異なります。以下では、日本語スピーカーが多く集まる主要都市と、その地域ごとの特徴について詳しく解説します。
デリー/グルガオン
進出企業数:2023年時点で約400社以上の日系企業が拠点を構える。
主要産業:製造業、サービス業、商社、IT、金融など多岐にわたる。
日本語スピーカーの特徴
総務や管理職のポジションが多く、バックオフィス関連のスキルを持った日本語スピーカーが集中しています。また、日系企業の工業団地がラジャスタン州の近くにあるため製造業での経験が豊富な候補者も多いです。
地域の特色
デリーとグルガオンは、インドの政治・経済の中心地であり、日系企業の進出数が最も多い地域です。多国籍企業との取引が活発で、高度なビジネス日本語スキルが求められるポジションが多いのが特徴です。
バンガロール
進出企業数:2023年時点で約250社の日系企業が進出。
主要産業:IT産業、技術開発、ソフトウェアエンジニアリング、スタートアップ企業。
日本語スピーカーの特徴
主にIT業界に従事している日本語スピーカーが多く、エンジニアや技術職が集まっています。通訳のみのポジションは少なく、技術的なスキルを持つ候補者が多いです。製造業も少ないため製造業経験のある日本語話者も少ない印象です。
地域の特色
バンガロールは「インドのシリコンバレー」と称されるIT産業の中心地です。技術系のスタートアップやグローバル企業が集積しており、日本語とITスキルを持つ人材の需要が高まっています。
ムンバイ
進出企業数:2023年時点で約200社の日系企業が拠点を設置。
主要産業:金融、経済、商社、貿易、エンターテインメント。
日本語スピーカーの特徴
インドの金融および経済の中心地として、日系金融機関が多く進出しているため銀行で働く日本語話者が多い印象です。
地域の特色
ムンバイはインドの金融および経済の中心地として、日系金融機関や商社が多く進出しており、営業職や経理職、さらには銀行業務に従事する日本語スピーカーが数多く活躍しています。2023年時点でムンバイには約200社の日系企業が拠点を置いており、特に金融や貿易関連のビジネスにおいて、日本語スキルが重要視されています。
グジャラート州(アーメダバード、バドーダラーなど)
進出企業数:2023年時点で約100社の日系企業が工場や拠点を設置。
主要産業:自動車産業、化学工業、製造業、重工業。
日本語スピーカーの特徴
製造業が盛んな地域で、製造業関連の職種に従事している日本語スピーカーが多いです。また、グジャラート州出身の方は少なく、デリー、グルガオンから引っ越して働いていることが多い印象です。
製造ラインの管理や日本本社との連携業務において、特に日本語スキルが求められています。
地域の特色
グジャラート州はインド有数の工業地帯であり、特に製造業の拠点として多くの日系企業が進出しています。2023年時点で約100社の日系企業が工場を構えており、自動車産業や製造業を中心に、日本語を話せるエンジニアや技術職の需要が非常に高い地域です。
プネ
進出企業数:2023年時点で約150社の日系企業が進出。
主要産業:自動車産業、製造業、IT、エンジニアリング、教育。
日本語スピーカーの特徴
IT 業が盛んな地域で、IT関連エンジニアやIT技術者の日本語スピーカーが多いです。また、教育機関が豊富なため若い人材も多く見受けられます。
地域の特色
プネには、多くの日系企業が進出しており、2023年時点で約150社の日系企業がプネに拠点を置いており、デリー、グルガオン、バンガロール、チェンナイ、ムンバイに次ぐ6番目に日系企業の進出が多い都市となります。特に自動車、製造業、IT、エンジニアリングなどの分野が盛んなようです。
インド人日本語スピーカーの日本語能力
企業がインド人日本語スピーカーを採用する際、彼らの日本語能力を正しく理解し、評価することは非常に重要です。しかし、インド人日本語スピーカーの実際の日本語能力や評価方法を知っている人は少ないのではないでしょうか?
本章では、どのように日本語能力を判断するのか、企業が日本語能力を判断する際に重視すべきポイントや、日本語能力に関する注意点について解説します。
日本語能力を判断する際に使われる “JLPT“とは何か
みなさんはJLPTという日本語能力試験をご存知でしょうか?
JLPT(Japanese-Language Proficiency Test)は、日本語を母語としない方々の日本語能力を測定・認定するための試験です。世界中で年に複数回実施されており、日本語学習者にとって最も広く認知された試験の一つです。このJLPTを基準に日本語スピーカーの採用を進める企業の少なくありません。試験はN1からN5までの5つのレベルに分かれており、N1が最も難しく、N5が最も易しいレベルとなっています。
JLPTは、文字・語彙、文法、読解、聴解の4つの分野で構成されています。しかし、スピーキング(会話力)の評価は含まれていないため、実際のコミュニケーション能力を完全に測定できるわけではないことに注意が必要です。
JLPTの限界と実際の日本語能力
JLPTのスコアや取得級は、日本語能力を判断する一つの指標にはなりますが、それだけで候補者の実践的なコミュニケーション能力を評価するのは難しいです。上記でも記載した通り、“会話力”は試験の評価には含まれていないのが理由になります。
たとえば、N1を取得していても会話が苦手な人もいれば、N3でも流暢に話せる人もいます。JLPTよりも、日本人と話した経験の豊富さが日本語能力を判断する際の一番重要な基準化と思います。
各レベルの特徴と実態
以下に私がたくさんの日本語スピーカーと話した経験をもとに各レベルの実際の日本語能力を記載させていただきます。
JLPT N1レベルの方の印象
多くの場合、日本人とほぼ同じレベルで会話ができます。特に日本での留学や就労経験がある方は、文化的な背景も理解しているため、スムーズなコミュニケーションが可能です。しかし、中にはN1資格を持っていても、実際に話す機会が少なく、スピーキング能力が十分でない方もいます。
JLPT N2レベルの方の印象
基本的なビジネス日本語を理解し、ある程度の会話ができます。簡単な漢字の読み書きも可能ですが、専門用語や日本人独特スラング等の表現には対応が難しい場合があります。
JLPT N3レベルの方の印象
日常会話は問題なくこなせますが、ビジネスシーンでの専門的な会話や文章の理解には課題がある印象です。難しい日本語を簡単な日本語に直して話すことでスムーズに会話が可能になります。
例:「転職理由はなんですか?」→「お仕事を変えた理由はなんですか?」
文脈で日本語を判断することも多いので、分かりやすい文脈で会話することも効果的です。
日本語能力を判断する際に重視すべきポイント
実際に日本語での面接を行う
日本語力を重視して採用したい場合、面接で実際に日本語で会話し、候補者のスピーキング能力を直接確認することが最も重要です。これにより、書類では分からない実践的なコミュニケーション能力や表現力を評価できます。
面接で頻繫に質問されるトピックは練習して流暢に話せる場合が多いのでイレギュラーな質問や意識的に日本語力を試す質問をすることで本当の日本語力を図ることができます。
日系企業での実務経験や日本での経験を確認する
日系企業での勤務経験や日本での留学・就労経験がある人は、ビジネス日本語や文化的な背景の理解度が高い傾向にあるため判断材料として役に立つかと思います。
インド人の転職の特徴
参考程度にインド人と日本人では転職という文化に大きな違いがあるため以下に記載させていただきます。参考にしていただけると幸いです。
転職時の給与は20%-30%UP
インドでは、転職時に給与アップを狙うことが一般的で、通常20~30%の給与増加が期待されます。人によっては50%-70%の給与UPを狙う候補者の方もいるため、企業側としては、この点を念頭に置いて給与交渉に臨む必要があります。
転職スパンは2~3年で転職
インドの労働市場では、2~3年ごとに転職するのが普通であり、これによって給与を上げる手段として活用されています。特に、20代の若手人材は短期間で転職を繰り返し、早期に高い給与を得ようとします。
なので、企業は高い成果を上げる人には高い昇給を用意したり、社員の満足度を高める施策を行う必要があります。
20代は全力で給与を上げようとする
20代のインド人は、結婚を見据え、収入を上げようとする傾向が強いです。なぜなら家族が見合いを手配する際に、カースト、宗教、社会的地位が大きな要素となることが多いため、収入は、家族にとっても結婚相手の選定における大きな決定要素であり、結婚市場でのステータスを上げるために努力する若者が多いです。
特に、結婚前に社会的地位を向上させることが、より良い条件の異性と結婚できる可能性を高めるため、20代はキャリアの初期から給与アップを強く意識します。
日本企業がインドで日本語人材を採用する際のポイント
インド市場において、日系企業にとって重要なことはインドと日本の企業風土や文化の違いを理解し柔軟に対応する給与や制度の設計だと考えています。上記の通り、インド人材の多くが短期間で転職し、転職時の大幅な給与アップを目指す傾向にあります。このようなインド特有の転職事情を理解し、柔軟な対応を行うことで、日本語人材の採用・定着を成功に導けると考えています。
日本語スピーカーの給与相場の理解
インドにおける日本語スピーカーの給与相場は、一般的なローカル人材とは大きく異なり、上昇傾向にあります。そのため、日本語スキルを持つ人材を採用する際には、現地の平均的な給与水準ではなく、日本語スピーカー特有の市場相場を正確に理解し、適切な給与を提示することが重要です。上記でも記載したように、インドでは転職時の昇給率が20〜30%と高水準であるため、日系企業も競争力を保つために、昇給・給与構造を柔軟に見直すことも重要です。日本語スピーカーの給与相場の理解が優秀な人材の獲得と定着への第一歩だと考えています!
人材育成の重要性
日本語スピーカーの中には、日本語以外の専門的なスキルや業務経験が不足している場合が多く、即戦力としての期待が難しいことがあります。そのため、企業としては長期的な視点で人材を育成する意識を持つことが求められます。研修や教育プログラムを通じて、業務に必要な知識やスキルを身につけさせることで、将来的な戦力として活躍できる人材を育てることができます。
日本でのトレーニング機会の提供
福利厚生の一環として、日本での研修やトレーニングの機会を提供することは、採用率や定着率の向上に非常に効果的です。日本での経験は、インド人材にとって貴重な成長機会であり、日系企業ならではの魅力となります。これにより、企業への忠誠心やモチベーションの向上が期待できます。
多様な業務への参画
通訳業務だけでなく、さまざまな業務に携わる機会を提供することも重要です。通訳のみのキャリアでは、将来的なキャリアパスや給与面での限界が生じやすいため、営業や企画、マーケティング、総務、経理など他の部門への参画を促すことで、従業員のスキルアップとキャリア形成を支援し、定着率を向上させることができると考えています。
通訳者へのメンタルサポート
通訳者は、出張等の異なる環境での業務、取引先と社内の人間での板挟みなど、ストレスを感じやすい職種です。激しい交渉の橋渡しになったり、母国語が通じない地域で、孤独を感じたりすることも多く、同行する日本人の方の心理的なサポートが重要になることも多いです。
また、採用後、上司や同僚の日本語が高度で話すスピードが速い場合、新入社員が会議についていけなかったり、誤解が生じる可能性があります。新入社員が理解できる日本語のレベルを把握し、それに合わせて話すことで、スムーズなコミュニケーションと日本スピーカーの方のストレスを軽減することができます。
まとめ
本記事では、インドにおける日本語スピーカーの給与相場や職種別の分布、地域ごとの特徴について詳しく解説しました。
インド市場で日本語人材を採用する際には、これらの情報を参考にしていただき、適切な人材選びや給与交渉に役立てていただければ幸いです。
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