「自分が関わることで新しい発想を生み出したい」 インドで刺身事業を手掛ける西野良和さん

 

日本とインドで弁護士をした後、インドで起業するという異色の経歴を持つ西野さん。

人の持つ技術に自分が介在することで新しい発想が生まれることに魅力を感じるという。

鮮魚文化のないインドで刺身の販売事業を起こし、

現在もインド人スタッフとコーチングしながら働く西野さんの想い、そして行動力の源に迫りました。

 

経歴

1980年、千葉県生まれ。2011年に弁護士登録。

日本の法律事務所で勤務後、14年からインドに移住グルガオンの法律事務所で働く。

16年に「ニシノ・ソリューションズLLP」を設立し、刺身や魚を使った加工品の販売を始める

 

日本とインドで弁護士をした後、起業の道へ

 

―弁護士として日本とインドで働いた後、起業した西野さん。インドに来るまでの経緯を教えてください。

 

「不条理な状況に陥らないためには、社会のルールを知ることは大切なのではないか」という想いから、

大学卒業後に司法浪人をして、29歳で司法試験に合格しました。

弁護士として日本で3年間働きましたが、日本だけではなく違う国でも働いてみたいという想いを次第に持つようになりました。

 

「経済発展を間近で見たい」「英米法を勉強したい」という想いからアジア、

とりわけシンガポールでの就職を希望していましたが、

シンガポールには既に弁護士が沢山いるという現状を知りました。

 

たまたまインドで就職口を斡旋してくれる友人がいたため、経済発展が目覚ましいこと、英米法も学べること、

そして、インドで仕事をすればインド・東南アジア間の法律問題にも関われるのではないかという考えも持ち始め、

インドの法律事務所に現地採用という形で勤めることになりました。

 

―インドの法律事務所で働きはじめたものの、物足りなさを感じ始め飲食事業に興味を持ったそうですね。

 

インドの法律事務所ではインド人弁護士のサポートをメインに行っていましたが

次第に業務に物足りなさを感じるようになりました。

 

そのような時に日本人の寿司職人との出会いがありました。

「インドでビジネスを始めてみたい」という想いから最初は和食のカジュアルレストランをやろうと考え、

話を進めていましたが、店舗候補地のオーナーと揉めて結局実現することはできませんでした。

 

―このことが現在の事業である「インド刺身を売る」きっかけになったのですね。

 

和食レストランはできませんでしたが、魚を捌ける寿司職人が自分の傍にいました。

寿司職人を見た時に「寿司を握れる」ということに注目しがちですが

私は「魚を捌ける」ということに着目しました。

 

大半の日本人は魚を捌くことはできないため、魚を丸ごと売ったとしても結局は食べることができません。

つまり「魚を捌ける」というのは大きな強みであると思いました。

 

このように私は今あるものを要素に分ける「分解」、

そして分解したものを別の形にする「統合」という考えをよくします。

こうして「魚を捌いて売る」という発想が生まれました。

 

またインド人が単独でできるビジネスは、インド人が同じビジネスを始めたら勝てないかもしれません。

しかし「刺身」は魚のクオリティコントロールが極めて重要で、インド人単独では難しいことから、

競争相手が出現しにくいビジネスだと考えました。

 

鮮魚を売る文化が無かったインドでの刺身事業

 

―インドで生魚を食べるというイメージがありません。インドの魚事情教えてください。

 

インドには生の魚を食べるという発想がなくカレーやフライにするのが一般的です。

漁港の近くで競り落とされた魚がローカルマーケットに卸されます。

競りの時点で魚は炎天下に置かれるため、生で食べられるような新鮮な魚を手に入れるのはとても難しいといえるでしょう。

 

―「鮮魚を売る」という発想がない状況で刺身事業を始めようとした西野さん。

どのような仕組みを作ったのでしょうか。

 

鮮度が急速に劣化するため、競りで魚を仕入れるつもりはありませんでした。

直接、漁師から買い付けをするため、南インドで漁師を探すところから始めました。

 

買い付ける量が多くない上に鮮度の要求までする私たちと取引をしたいと言う漁師はなかなか現れませんでしたが、

南インドのインド人の友人の紹介を通して何とかポンディシェリという場所で漁師チームを作ることができました。

 

また、漁師チームだけに任せきりになるとクオリティを担保することができ無いと思ったため、

クオリティを管理する監視チームを漁師チームとは別に作りました。

 

 

魚が船に上がった時点で鮮度との勝負が始まります。

自社の日本人スタッフを日本の漁港に送り込み、血抜きや神経締めなどの技術を教えてもらい、

これを南インドの漁師に教えました。

 

また、一から物流を作っていったため、輸送に使う発泡スチロールも、

工場を探し買い付けを行いました。

 

現在は魚をアイスジェルに入れて、ポンディシェリから約150キロ離れたチェンナイまで陸送で運び、

さらにチェンナイ空港から約2200キロ離れたデリーまで空輸で運んでいます。

獲った日の夜にチェンナイ空港を出て、翌日の朝にデリーの空港に着きます。

 

漁師を日本に送るところから現在の仕組み化まで1年と7ヶ月ほどかかりました。

 

―現在はグルガオン内のショップIrohaさん、そしてデリバリーでお刺身を売っていますね。

 

最初はグルガオンのサンシティマーケットという所に店舗を出しましたが、

周りに日本人がよく利用する店がなかったのでお客さんが集まらず、売上には繋がりませんでした。

 

そこで昨年の8月に日本人が作るパンや有機野菜が置いてあるIrohaに刺身を置くようになりました。

それまで売上がゼロという日もありましたが、徐々に伸びてくるようになりました。

 

そうはいっても売れる日もあれば売れない日もあります。

売れなかった刺身を翌日に売ることはしないので、一旦冷凍してお惣菜にするなど活用しています。

 

また、最近よく売れるようになった海鮮丼の刺身は全て冷凍のものを使っているので、

刺身クオリティの魚を有効利用できるようになりました。

 

このような時にも「分解と統合」の考えを使います。

余ったものを別のどこに活かせないかというのを常に考えています。

 

一番テンションが上がることがその人の一番やりたいこと

 

こうして事業として仕組み化をしていった西野さん。

現在社内は全員インド人とネパール人スタッフだという。

―「コーチング」にも力を入れているそうですが、インド人スタッフと働く上で心がけていることをお教えください。

 

スタッフと働く上で意識していることは適材適所に人を置く、つまり向いていることをやってもらうということです。

スタッフによって仕事へのモチベーションや想いは様々です。

仕事よりも家庭を優先したいなど優先順位が人によって違うのは当たり前な中で、

スタッフ全員に向上心を求めるというのも経営者のエゴだと思っています。

 

スタッフの価値観を大切にして、対話を通して、それぞれの向いていることや一番やりたいことを把握し、

彼、彼女が一番やりたいと思うことをやってもらっています。

 

スタッフの一番やりたいことを見極める時には、その人の一番テンションが上がる瞬間に注目しています。

対話の中で、急にテンションが上がる瞬間を見逃さないようにしています。

 

挑戦したいスタッフには新メニューの考案をお願いしたり、和食のレシピを渡して勉強してもらうなどしています。

業務時間外にも、自分でインターネットで勉強しているようです。

 

事業はスタートアップ段階なので彼らのできることが増えれば、ビジネスも大きくなります。

最近だと元々ペンキで看板をぬる仕事をしていて色彩感覚に優れているスタッフに

カラフルなベジタリアン用の寿司の考案を任せました。

 

 

―現在の顧客は日本人だそうですが、今後刺身文化はインド人にも広まるのでしょうか。

 

現在「Sushi」はインドで急速に広がり初めています。

また、バンガロールなどは元々外国人が多いことに加えてアメリカなど海外から帰国したインド人も多いため、

「生魚を食べる」という文化が広がりつつあります。

「刺身」がすぐ流行るかは分かりませんが地道に販売を続けていきます。

 

―弁護士、そしてインドでの起業と様々なことをしていますが、行動力の源はどこにあるのでしょうか。

 

自分との対話を大事にしています。

自分が本当に何をやりたいのかを問い続け、自分の心がやりたいと思っていることを頭で把握できているので、

やりたいことができているという実感があります

 

―今後の展望をお教えください。

 

まずは自社の販売サイトを作ります。

南インドに2号店を出すことも検討中です。

他にもインドのZOMATOというサービスを使ってのデリバリーも近々開始する予定です。

 

刺身販売事業とは別に最近インド人向けのダイエットフードデリバリーサービスの受託製造を始めました。

インド料理を代表するチャパティ(ナンのようなもの)やピザなどをグルテンフリーにしたものを作っています。

 

インドでは、今急速にダイエットフードの波が来ています。

4,5ヶ月でトレンドが変わりどんどん取り入れられていく様子はスピード感がありとても面白いと思っています。

 

現在インド人のプログラマーからプログラミングを習っています。

これもせっかくのチャンスなので、このプログラマーと一緒に何らかのビジネスを立ち上げようと思い

現在ビジネスモデルを検討中です。

 

 

―東南アジア進出や日本への帰国もお考えなのでしょうか。

 

あまりひとつの所にいるのが好きではく、転々としているのが好きです。

今の拠点はグルガオンですが、そろそろ別の地域にも行きたいなと思っています。

 

東南アジアや香港に興味がありますし、アメリカにも住んでみたい。

世界各地でビジネスを起こして、転々と世界をフラフラしていたい。

今のところ、日本に帰ることは考えていないですね。

 

また、私は陸路でハードに移動すればするほど生きている感覚がします。

漁師に会うために南インドに行くことなどは自分にとっては一切苦ではなく、むしろとても楽しいです。

このことは他の人にはなかなかないできない自分の強みだと思っています。

今後も自分の足を使って様々なところを歩き回り、ビジネスを立ち上げていきたいです。

 

―西野さんが考えるインドで働く魅力を改めて教えてください。

 

個人の起業に関してはここ5年ぐらいがチャンスだと思っています。

インドにはまだないサービスも多いですし、サービスセクターにおける大企業の進出は

東南アジア等と比べると全く進んでいません。

 

例えばバンコクなど、サービスが出揃って、競争が激しい地域では

個人で個人で起業して成功するというのはかなり難しいのではないかと思っています。

インドにはまだまだないものが沢山あるので個人でも十分に勝負できる余地が残っています。

 

一方で日本人の繋がりだけでビジネスをするのは難しいです。

インド人との良いコネクションがとても大切になります。

私は現地採用で働いて行く中で、インド人との繋がりを作り、起業する準備が出来ました。

 

何のコネクションもなく、ただインドに来れば何とかなるほど甘くはありません。

インドでの起業の前に現地採用で働くというのも1つの選択肢としてとても良いのではないでしょうか。

 

また、起業をすることを前提にしていなくても、急成長しているインドで現地採用として働くことは意味があると思います。

私も、インドの法律事務所で現地採用として働くことで、急速に英語力を高めることができました。

 

ただ、どこの国で働く場合でも言えることですが、漫然と現地採用で働いても、時間を浪費するだけです。

何のために、インドで働き、何年でどのようなゴールに到達するのかを明確に思い描くことは必要だと思います。

 

編集後記

日本での就業、海外転職、インド現地採用、起業と様々なことを成し遂げている西野さん。

「自分との対話」「他人との対話」を大事にすること、また分解した要素同士を組み合わせて

新しいものを作り出すという考えがとても勉強になりました。

また、インタビュー中に「自分がいなくてはならない環境に身を置きたい」

ということをおしゃっていて納得と共感をしました。

 

インドでお刺身食べられます!

今後の事業にも大注目です。

ありがとうございました。

 

Tamura Misaki/田村 水咲

Tamura Misaki/田村 水咲



早稲田大学文学部在学中。東京都出身。
現在RGF select Indiaでインターンシップ生として参画中。
「インドで働く」をもっと身近にするために、就業面や生活面を発信していきます。

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